京都地方裁判所 平成元年(行ウ)18号 判決 1991年7月19日
京都市西京区大枝沓掛町五-六
洛西沓掛団地三棟四〇三号
原告
乾均
右訴訟代理人弁護士
南部孝男
京都市右京区西院上花田町一〇番地
被告
右京税務署長 平居貞夫
右指定代理人
山口芳子
主文
一 原告の主位的請求の訴えを却下する。
二 原告の予備的請求を棄却する。
三 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 原告(請求の趣旨)
1 主位的請求
一 被告が昭和六三年二月一〇日付けでした原告の昭和六〇年分所得税につき総所得金額を八、〇一五万〇、五〇九円とする更正処分が無効であることを確認する。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決。
2 予備的請求
一 被告が昭和六三年二月一〇日付けでした原告の右昭和六〇年分所得税の更正処分を取消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決。
二 被告(答弁の趣旨)
1 主位的請求関係
(一) 本案前の答弁
主文第一、三項と同旨の判決。
(二) 本案の答弁
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決。
2 予備的請求関係
主文第二、三項と同旨の判決。
第二当事者の主張(主位的請求関係)
一 原告(請求原因)
(一) 被告は、昭和六三年二月一〇日、原告に対し、原告が、訴外檜垣民子(以下「民子」という)との離婚に伴う財産分与ないし慰藉料として別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という)を民子を対して時価で譲渡したとして、原告の昭和六〇年分の所得税につき、所得金額を八、〇一五万〇、五〇九円、納付すべき税額を一、九二三万三、〇〇〇円とする更正処分(以下「本件更正処分」という)を行った。
(二) ところが、本件更正処分に先立つ昭和六一年七月四日に原告作成名義で被告に提出された期限後申告書(以下「本件申告書」という)は、原告が作成したものではない。
よって、本件更正処分は、原告の申告に基づかないものであってその違法は重大かつ明白であるから、無効である。
二 被告
1 本案前の主張
(一) 仮に原告の申告に基づかずに本件更正処分がなされたとしても、被告はこの場合、所得税賦課決定処分をなすべきものを更正処分をしたことになるにすぎない。そして、賦課決定処分も更正処分もその形式に差があるのみであって原告の租税債務の額を定める点では同じであるから、更正処分の無効を主張するにつき原告には訴えの利益がない。
(二) また、主位的請求と予備的請求はその目的が同じであり、予備的請求が出訴期間等の訴訟要件を具備しているから、主位的請求についての訴えの利益はない。
2 本案の認否
(一) 主位的請求原因一(一)の事実を認める。
(二) 同一(二)の事実を否認する。
3 本案の主張
(一) 仮に、原告自身が本件申告書を記載したのではないとしても、原告から納税申告手続を委任された民子ないしその母である訴外檜垣ひろ子(以下「ひろ子」という)が記載したものであるから、本件申告書は原告の意思に基づくものである。
(二) また、本件申告書が原告自身の記入によるものではないにしても、原告は、本件更正決定に対する異議申立、審査請求手続において原告が本件申告書を被告に提出したことを前提とした主張をしていたから、本件申告書提出の追認をしたものである。
三 原告(認否)
1 本案前の主張の認否
すべて争う。
2 本案の主張の認否
二3(一)(二)の各事実を否認する。
第三当事者の主張(予備的請求関係)
一 原告(請求原因)
(一) 原告は、陶芸製造及び販売業を営む者であり、その昭和六〇年分の所得税の期限後申告、更正、異議申立、異議決定、審査請求、裁決等の課税の経緯は、別表1記載のとおりである。なお、右更正処分は、原告が、民子との離婚に際し、財産分与ないし慰藉料として本件土地を民子に譲渡したことによる分離長期譲渡所得の存在を認定したものである。
(二) しかしながら原告は民子に対し、両者の離婚に伴う財産分与ないし慰藉料として本件土地を譲渡した事実はない。よって、本件更正処分は、原告の昭和六〇年分総所得金額を、〇円とすべきところ誤って認定した違法があり、取消すべきである。
二 被告(認否、主張)
1 認否
(一) 予備的請求原因一(一)の各事実を認める。
(二) 同一(二)の事実を争う。
2 主張(抗弁)
(一) 本件土地は、訴外檜垣勝彦(以下「勝彦」という)が所有していた。
(二) 原告は、勝彦の長女民子と結婚し、勝彦の養子となったところ、昭和五八年四月一〇日勝彦が死亡し、遺産分割協議により原告が本件土地を相続した。
(三) 昭和六〇年三月二六日、原告は民子と離婚し、これに伴う財産分与として原告は本件土地を民子に譲渡し、昭和六〇年四月一七日、その旨所有権移転登記がなされた。
(四) よって、被告は原告に対し、右財産分与による本件土地譲渡を譲渡所得税の対象として本件更正決定を行ったものである。なお、原告の昭和六〇年分の分離長期譲渡所得金額の計算は次のとおりであり、この範囲内でなされた本件更正決定は適法である。
(1) 譲渡収入金額 一億一、四八九万三、三四四円
右金額は、次のイとロの価額の合計額である。
イ 本件土地のうちの現況宅地部分(四九五・八六平方メートル)(以下「本件宅地」という)の価額
七、五九七万八、六四四円
右価額は、本件宅地の近傍の公示地(京都市西京区樫原五反田五番七 宅地 以下「本件公示地」という)の昭和六〇年一月一日現在の地価公示法第二条に規定する公示価格に基づき、別表2のとおり算出したものである。
なお、本件宅地及び本件公示地の各相続税評価額は、相続税財産評価に関する基本通達一二に規定する倍率方式により算出したものである。
ロ 本件土地のうちの現況山林部分(三四〇平方メートル)(以下「本件山林」という)の価額
三、八九一万四、七〇〇円
右価額は、別表3のとおり算出したものである。
(2) 必要経費 一、四七一万六、七四八円
右価額は、次のイとロの合計額である。
イ 取得費 五七四万四、六六七円
本件土地の取得費は、租税特別措置法(ただし、昭和六三年法律第四号により改正前のもの)(以下「措置法」という)三一条の四(長期譲渡所得の概算取得費控除)、「租税特別措置法(山林所得・譲渡所得関係)の取扱について」通達三一の四の一(ただし、昭和六三年一一月二九日真資三-五ほかにより改正前のもの)及び所得税法六〇条(贈与等により取得した資産の取得費等)一項一号により、譲渡価額の五パーセントに相当する金額である。
ロ 取得費に加算される相続税額 八九七万二、一一七円
取得費に加算される相続税額は、措置法三九条一項(相続財産に係る譲渡所得の課税の特例)の規定に従い、原告が相続により取得した財産の価額の合計額(以下「課税価額」という)のうちに当該譲渡をした資産の当該課税価額の計算の基礎に算入された価額の占める割合を、原告の相続税額全額に乗じて計算した金額で、別表4のとおり算出した。
(3) 特別控除額 一〇〇万円
措置法(但し昭和六二年法律第九六号により改正前のもの)三一条三項に規定する金額である。
(4) 分離長期譲渡所得金額 九、九一七万六、五六〇円
譲渡所得金額から、必要経費及び特別控除額を控除した金額である。
三 原告(認否、反論)
1 認否
(一) 被告の主張二2(一)の事実を認める。
(二) 同二2(二)のうち、遺産分割協議により原告が本件土地を相続した、とする点を否認し、その余を認める。
(三) 同二2(三)のうち、昭和六〇年三月二六日に原告と民子が離婚したこと、移転登記がなされたことを認め、同年四月一七日原告から民子への所有権その余を否認する。原告から民子への本件土地所有権移転は、財産分与ないし慰藉料としては過大であり、贈与とみるべきである。
(四) 同二2(四)を争う。
2 反論(再抗弁)
(一) (本件土地所有権の遡及的喪失)
原告が本件土地を相続により取得したとしても、それは原告と民子との離婚により遡って無効となった。すなわち、原告と民子との結婚後原告は勝彦の養子となったが、これは勝彦が原告を自分の跡継にしようと考え、原告もこれを了承して本件土地を相続したものである。したがって、右相続は原告が桧垣家の後継者でなくなった場合はその効力を失うべきもので、原告と民子との離婚が解除条件となっていた。そして、昭和六〇年三月二六日の原告と民子との離婚により解除条件が成就し右相続は遡って無効となり、原告は本件土地所有権を遡及的に喪失したから、その所有権のない原告が民子に財産分与として本件土地所有権を移転することは、できない。
(二) (錯誤無効)
仮に、原告から民子に対し、財産分与ないし慰藉料として本件土地が譲渡されたとしても、右譲渡は錯誤により無効である。すなわち、原告は自分に対して譲渡所得税が課されることはないと考えて本件土地を譲渡したが、予期に反して一、九二三万三、〇〇〇円もの譲渡所得税を課されることとなった。よって、原告の譲渡の意思表示には要素の錯誤が存在し無効である。
四 被告(認否)
(一) 原告の反論(再抗弁)三2(一)の事実を否認ないし争う。解除条件付き相続なるものは認められない。
(二) 同三2(二)は不知ないし争う。
第四証拠
証拠に関する事項は、本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
第一主位的請求について
本案前の主張につき検討する。
更正処分は、納税申告書の提出があった場合において行われるものであって(国税通則法二四条)、納税申告書を提出しなかった場合には賦課決定処分を行うべきであるから(同法二五条)、原告主張のように原告が本件納税申告書を提出していないのに本件更正処分が行われたものとすれば、これは右更正処分の要件を欠き違法である。しかしながら、過少申告の場合の更正処分も、無申告の場合の賦課決定処分も、ともに納税義務者の申告義務が適正に履行されなかった場合における、課税庁が行う、総所得金額及び所得税額等を確定しその税額を賦課する課税処分であって、その本質を同じくし、殊に本件の場合は、そもそも期限後申告(同法一八条)であり、しかも右申告に係る納付税額は「〇円」で、両者の間で納付すべき所得税額、加算税の額に差異が生じないから、無申告の場合に誤って更正処分をしたからといって、本件更正処分に重大な瑕疵があり無効であるとはいえないし、またこれにより原告が不利益を受けるものでもない。したがって、仮に原告の主張のように、被告が賦課決定処分をすべきものを本件更正処分を行ったとしても、原告は、そのことによって権利を侵害される虞がないから、行政事件訴訟法三六条所定の右更正処分の無効の確認を求めるにつき法律上の利益を有しない(最判昭和四〇年二月五日民集一九巻一号一〇六頁参照)。
よって、原告の主位的請求は、その余の判断をするまでもなく、訴えの利益を欠き不適法である。
第二予備的請求について
一 請求原因(一)の各事実(課税の経緯)は当事者間に争いがない。
二 本件課税の適法性につき判断する。
1 被告の主張第三の二2(一)の事実は当事者に争いがない。
2(一) 同二2(二)のうち、原告が勝彦の長女民子と結婚し勝彦の養子となったこと、勝彦が昭和五八年四月一〇日死亡したことは当事者に争いがない。
(二) 右同(二)のうち、遺産分割協議により原告が本件土地を相続したか否かにつき検討する。
乙第六号証の存在、成立に争いのない乙第四、第一二、第一四号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第二六号証、原告本人尋問の結果の一部及び弁論の全趣旨に前示当事者間に争いのない事実を総合すると、次の各事実を認めることができる。
(1) 昭和四七年ころ、原告は勤務先の京都板硝子株式会社を辞め、中学時代の一年違いの同窓生である民子の父勝彦が経営する「桂窯」という陶芸の仕事を手伝いを始めた。
(2) 昭和四八年二月二七日、原告は、将来勝彦から「桂窯」を継ぐことを条件として、民子と結婚したが、この段階では未だ勝彦夫婦との養子縁組はしていなかった(甲第四、第七号証)。
(3) 昭和五一年六月七日、原告は、勝彦の眼鏡にかない、その作陶能力を認められて、「桂窯」と桧垣家の財産を継ぎ管理するために、勝彦の申入れで、勝彦夫婦との間で養子縁組をし、そのころ、原告夫婦は、勝彦夫婦の住む京都市西京区樫原に転居してこれと同居し、それから二、三年後、桧垣一家は全員で西京区卸陵北山町に転居した(甲第四、第七号証、原告本人-平成二年一二月一二日実施分一七丁裏、一八丁表)。
(4) 昭和五六年ころ、勝彦は、病に倒れて入院し、自分が死んだ場合には「桂窯」のある本件土地及びその地上建物を民子に相続させようと考えた(乙第二六号証二頁)。
(5) 原告はこれをよしとせず、仕事を託す自分に名義を移すよう申入れたため、勝彦もこれに応じることを妻ひろ子を通じて明らかにし、原告はこれを了承した(原告本人-平成二年一二月一二日実施分九丁裏ないし一〇丁表、一九丁表、平成三年三月八日実施分一七丁裏)。
(6) 昭和五八年四月一〇日勝彦は死亡した(争いがない)。
(7) 昭和五八年一〇月九日、原告を含む相続人連名の遺産分割協議書(乙第六号証)が作成された。
(8) 原告は、右分割協議書で原告が相続するとされた財産(相続財産)につき、相続する意思があった(原告本人-平成二年一二月一二日実施分二〇丁裏)。
(9) 原告は、経理一般、本件相続に関する相続税の申告に関する事項、相続登記手続等を自らは行わず、実姉や民子、ひろ子に委せ、実印もひろ子又は民子に預けっぱなしにしていた(原告本人-平成二年一二月一二日実施分四丁表、八丁裏、九丁裏、一三丁裏、一五丁表・裏、二〇丁裏)。
右認定の各事実及び弁論の全趣旨を考えあわせると、原告は遺産分割の原案の大要を予め了承し、原告の期待と意思にかなった分割協議書が作成されているのであって、分割協議は様式行為ではなく、口頭の合意であっても協議として成立するから、本件においては、原告が自ら遺産分割協議書(乙第六号証)を作成したものではないと認められるけれども、口頭の合意により分割協議が成立していたものと認められる。
(三) 原告は、本件土地を原告が相続するとの遺産分割があったとしても、右遺産分割には原告と民子が離婚した場合にはその効力を失うとの解除条件が付されていた旨主張し(原告の反論第三の三2(一))、その旨を供述するが、本件全証拠、弁論の全趣旨に照らし、遽に信用できず、他にこれを認めるに足る的確な裏付け証拠がない。したがって、原告の右主張は採用できない。
3(一) 被告の主張第三の二2(三)のうち、昭和六〇年三月二六日に原告と民子が離婚し、本件土地につき同年四月一七日原告から民子への所有権移転登記がなされたことは当事者間に争いがない。
(二) 原告から民子への本件土地所有権移転登記が財産分与ないし慰藉料の支払によるか否かにつき検討する。
成立に争いのない乙第三号証の二、第四号証によれば、原告は、民子と離婚に伴う財産分与ないし慰藉料の支払のため本件土地を譲渡したことが認められる。原告本人尋問の結果によれば、原告は乙第四号証の内容をよく読まずに署名したと供述するが、他方で、右署名に際し原告は、訴外桧垣ひろ子から原告名義の財産を全部置いていくよう言われていること、また原告自身「ジープまで置いていくのか」と発言していることがそれぞれ認められ、これらによれば原告は本件土地を離婚に伴い民子に譲渡することを了承していたものというべきであり、したがって、右原告本人尋問の結果部分によっても、財産分与ないし慰藉料の支払のため本件土地が譲渡された旨の前認定を左右することはできない。
なお、弁論の全趣旨により真正な成立が認められる乙第二六号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告と民子との離婚については、原告が、離婚直前までにスナックのママ訴外上田明美と深い関係になり、昭和六〇年三月一五日に長岡京市内にマンション「コーポ中小路」の一室を桧垣伸行名義で賃借し、同月二〇日に同女はその所有にかかる向日市所在の宅地建物を売却処分し、スナックを廃業して、右マンションに転居し、同月末頃からは原告は同女と同居を始めていることなど、離婚には原告の側に重大な有責事由があり、原告において民子に対し多額の慰藉料を支払い財産分与する必要があったものと認められる。そのため、成立に争いのない乙第四号証のとおり原告はその所有財産のほとんど全部を民子に移転する旨合意せざるを得なかったと認められ、これをもって本件土地の所有権移転が民子への贈与によるものといわねばならないものではなく、これは財産分与ないし慰藉料の支払のためのものであると認められる。
(三) 原告は、その反論第三の三2(二)において、本件土地の分与ないし譲渡契約は錯誤により無効であると主張するので、この点につき検討する。
意思表示の動機の錯誤が法律行為の要素の錯誤としてその無効をきたすためには、その動機が相手方に明示的又は黙示的に表示されて法律行為の内容となり、もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要する(最判平成元年九月一四日判例時報一三三六号九三頁参照)。
したがって、原告主張の、譲渡所得税を課されることはないと誤信したというのは、当然には法律行為の内容の錯誤ではなく、いわゆる動機の錯誤に該当し、右の譲渡所得税の課税がないことを相手方に明示的又は黙示的に表示されなければ法律行為の内容の錯誤としてその無効をきたすものとはなり得ない。本件についてこれをみると、本件全証拠によっても、右動機が民子に明示的に表示されたことはもとより、原告と民子との間に財産分与ないし慰藉料支払に伴う課税について話し合ったり、民子が原告に課税されることを気遣ったり、自己に課税されるものと考えていたことを示す的確な証拠はなく、右動機が黙示的に表示されたものとも認めることができない。このことは、前認定のとおり、離婚につき原告に一方的に有責性があり、民子がむしろ婚姻の継続を望んでいたところを、原告が強く望んで離婚を了承してもらったこと、及び、成立に争いのない乙第一二、第一三号証、弁論の全趣旨によると、原告は、その相続した本件土地につき民子へとなされた財産分与を原因とする所有権移転登記の抹消請求の訴えを当庁に提起し、この別訴において、右同様の錯誤を言い「原告及び民子は、ともに原告に譲渡所得税が課せられるとは思わなかったのであるから、本件土地の財産分与は錯誤により無効である」と主張するのに対し、民子はこれを「争う」旨答弁していること、原告が異議申立、審査請求段階では財産分与の錯誤無効の主張をしていなかったことなどが認められることを考え併せ、本件課税を民子が負担することの話合いや、それを前提とした共通の錯誤があったとは到底認められないことに照らし明らかである。したがって、また、右認定の経緯に照らして、原告と民子との間において右動機を法律行為の内容とする旨の合意があったとみることもできない。よって、原告の錯誤無効の主張(再抗弁)は、失当であって、これを採用することはできない。
(四) 成立につき争いのない乙第一一号証、第一八ないし第二三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第八、第二四号証、弁論の全趣旨によれば、原告の昭和六〇年分の分離長期譲渡所得金額に関する被告の主張二2(四)の計算が正当であると認められ、他にこれを動かすに足る証拠がない。
三 以上のとおりであるから、前示二(四)の範囲内でなされた本件更正処分は適法であって、原告の昭和六〇年分の総所得金額を誤った違法がない。
第三結論
よって、その余の判断をするまでもなく、原告の主位的請求の訴えは法律上の利益を欠き不適法であるからこれを却下し、予備的請求はその理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 菅英昇 裁判官 佐藤洋幸)
物件目録
所在 京都市西京区樫原鴫谷
地番 四一番の五
地目 山林
地積 八三六平方メートル
別表1
原告の昭和60年分の所得税の課税の経過及びその内容
<省略>
別表2
<本件宅地の価額>
<省略>
別表3
<本件山林の価額>
<省略>
別表4
<取得費に加算される相続税額>
<省略>